『海洋温度差発電(OTEC)技術を核とした温度差発電ビジネス』 株式会社ゼネシス

<'07 ビジネス部門 環境ビジネス・ベンチャーオープン 大賞受賞>

【概要】

表層の温海水と深層の冷海水との温度差をエネルギー源として発電を行う海洋温度差発電「OTEC(Ocean Thermal Energy Conversion)」を実用化。OTEC発電におけるCO2排出量は、他の発電方式と比較して極めて少なく、使用した表層水や深層水を利用し、海水淡水化、地域冷房供給、深層水ビジネスなど、発電を中心とした複合ビジネスの展開にも貢献。また、温度差を利用するOTEC発電は、温泉水や石油精製、製鉄、化学工業などの工場温排水の利用も可能であり、その活用効果に期待される。

【受賞者コメント】

「海洋温度差発電(OTEC)技術を核とした温度差発電ビジネス」の事業化に取り組まれたきっかけをお聞かせください。

平成7年1月17日、阪神・淡路大震災。株式会社ゼネシスのOTEC事業への取り組みは、この時からはじまりました。
ゼネシス代表取締役社長 里見公直はその起点となった出来事をこう振り返ります。
「あの惨劇の直後から寒風の中、 醸造メーカーさんが集中している灘五郷へ毎日自転車を押しながら通っていました。その2日目ぐらいでしょうか。東灘区深江の小学校のグラウンドに、名神高速は止まり、橋は落ちているのにどのようにしてお見えになったのでしょうか、 救援物資を荷降ろししている東京都杉並区のトラックがいたのです。自転車を止めて唖然と見ていました。徹夜で来られたのでしょうが、キビキビとした動作で 荷降ろしなさっているのを見て、もう涙が溢れて止まりませんでした。荷が空になり、『あぁこれで帰られるのかなぁ』と思って見ていましたら、反転し生ゴミ のところに車をつけてどんどん積みはじめるんです…。生ゴミを満載し『失礼します!』と。もう感激で前が見えなかったんです。行政官としてそういうことを教わったんだろうか。いや、個人の感性だと思います。人間ってとても知恵が出るんですね。もうひと働きと思われたのでしょう。素晴らしいではありませ んか。 生ゴミを満載して帰られたことを本当に昨日のことのように思い出します。 私を含め神戸の避難所の方々はとても勇気付けられたと思います」
この原体験が『私も何かひとさまのお役に立ちたい』という希望を生み出し、 現在の事業の推進力となっています。
里見は友人の勧めで佐賀大学の前学長である上原春男氏の主宰する「上原塾」に入塾し、海洋温度差発電(OTEC;Ocean Thermal Energy Conversion)技術の素晴らしさに感銘を受けました。当時は酒造機械会社の事業主として順風満帆な日々を過ごしていたのですが、「この技術は21 世紀の大輪になる」と確信し、上原先生の大学やご自宅まで通って薫陶を頂き、「これからの人生は美しい地球を残すことに一生懸命になろう」と決意し、 OTECの事業化を決断しました。それからは当時の事業で蓄積した内部留保に加え、売却できるものはすべて売却して事業に備えました。儲からないところにはコンペティターがいなく、周辺を含めた新技術開発で効率を上げれば可能になります。これなら「私たちがオンリーワンになれる」と確信しました。


eco japan cup 2007への応募動機をお聞かせください。

21世紀、温暖化による気候変動で世界的に水不足が深刻になってきており、太平洋島嶼国・中近東をはじめ多くの国で水資源を確保する新たなシステム確立が急務 となっています。現在の淡水化システムは、石油資源を使用することによる動力(熱・電力)によって運転されており、生活水を確保するために高額な化石燃料 を調達する必要性に国家の経済が追われている国々が多く存在します。
水資源やエネルギーにより生産されている食糧についても、限界が指摘されている中で、近年、未利用資源の宝庫として、海洋から再生可能なエネルギー及び生活水を得ることに大きな期待が寄せられましたが、膨大な潜在的ポテンシャルを有するにもかかわらず、その利用を可能にする技術が確立できていませんでした。
しかし、当社は10年以上も前からOTEC事業に着目し、実用化するための技術開発、若手技術者の育成、世界各国への営業活動を精力的に展開し、現在実設 備普及に対応可能な技術レベルを有するに至りました。10年以上に及ぶ研究開発・営業活動はOTEC技術を核とした温度差発電ビジネスの芽をさまざまに生み出しました。それが、排熱から電力・水を生む排熱温度差発電(DTEC)であり、温度差エネルギーを利用した海水淡水化技術(OTED)です。
また、深層水を使った漁場の造成は、食料問題の解決に貢献することができます。先に述べた21世紀に世界中で顕在化しつつある問題、温暖化、水不足、エネ ルギー枯渇問題、食料問題、といった問題を一挙に解決しうる「海洋温度差発電(OTEC)技術を核とした温度差発電ビジネス」がいよいよ飛躍する時と見極め、今回のeco japan cup 2007に応募させていただきました。


受賞事業の今後の可能性についてお聞かせください。

OTEC は、クリーンで再生可能な海洋熱エネルギーを利用しています。OTECにおけるCO2排出量は、他の発電方式と比較すると極めて少なく、資源環境技術総合研究所が行ったLCA手法による1kWhあたりのCO2排出量(kg-CO2/kWh)は、100MWプラントでは0.014であり、化石燃料由来の発電 方式である石炭火力発電(0.916)や比較的CO2排出量が少ないといわれるLNG火力発電(0.563)ばかりでなく、自然エネルギーである太陽発電 (0.153)や水力発電(0.017)より少ないと計算されています。
OTECのエネルギー源となる海洋の温度差は元をたどれば、太陽光エネルギーが表層海水の温度を上昇させる事に起因します。太陽光の膨大なエネルギーを受 けるのは地球の表面積の7割を占める海で、その無尽蔵なエネルギーを動力源とするOTECは再生可能なエネルギーの中でもずば抜けたポテンシャルを持って います。
また、OTECがエネルギー源とする海洋の温度差は熱帯・亜熱帯地域では年間を通して一定(あったとしても、季節による予測可能な変動)であるので、エネルギーの安定供給が可能で、原子力発電などと同じくベースロード発電として期待されます。
OTECは発電分野で社会に貢献するのみならず、地域社会にて複合的にその特徴を発揮します。「海水の淡水化による造水」、「海洋深層水の二次利用による 魚場造成」、「深層水の低温安定性を利用した地域冷房システム」、「リチウムなどのレアメタル回収」などを通して、食糧問題や水不足、その国の経済構造の 安定化へ向けて、環境への負荷が少なく持続可能な形でアプローチする産業のプラットフォームとなります。
DTECでは、現在捨てている排熱で発電するため、燃料を必要とせず、新たなCO2の発生はありません。またその発電過程において、排熱温度は低下するため、排熱による環境への影響は低減され、環境配慮型の省エネルギー技術といえます。
世界中での排熱の有効利用については、経済性の追求から高温で大規模排熱源のみに注目が集まり、施策が集中してきました。それよりも絶対量の多い低温排熱 分野での有効利用こそ今後取り組まなければならない部分であり、この低温排熱利用分野で先行するDTECプラントは、経済性を含めて環境・社会へ貢献が認 められ、その分野への積極的な進出を後押しすると思われます。


今後、受賞事業をどのように発展させていこうとお考えでしょうか。

DTEC発電については、各国で事業会社を立ち上げ、多量な排熱源を有する大規模施設の調査・基本設計を行い、DTECプラントを建設・運転していくと同時に、小規模熱源対応としては、適正規模の小型DTECモジュールプラントを製造・納入していきます。
DTEC商用プラントで実績を重ね、OTEC実証プロジェクトを成功させれば、足踏みをしていた潜在需要が喚起されることは間違いありません。またプラントが安定的に稼働していることが実証されれば、民間リスク資本の参入が容易になります。ですから、まずは実証プラント実現のために、関係機関・団体に働きかけることも含めて人的・経済的資源を注力していきます。
また、OTEC・DTECともに、プラントそのものを販売するとともに、将来はプラントを自前で建設・保有し、売電・売水事業を行うことを視野に入れています。OTECでは深層水の特性を活かした複合的な製品化(海水淡水化、地域冷房供給、水素製造、リチウム抽出、深層水ビジネス)が可能であり、海洋肥沃化による魚場造成も行うことで、発電を中心とした複合ビジネス化を実現したいと考えます。
OTEC・DTEC技術のコアである高性能プレート式熱交換器は自社で開発・製造を行い、低温度域から中温度域まで各温度域で高性能を発揮できる様、さらなる研究開発を進めていきます。